ローファー 踏みつけ 女子高生

遠くから野球部が練習する声が聞こえる。私は今、担任の福永を踏みつけている。誰もいなくなった放課後の教室で、女子高生の私が、四つん這いになった教師の背中を踏みつけている。ローファーも履いたまま。
しばらくグリグリと踏みつけていると、やがて福永は立ち上がり、晴れ晴れとした笑顔を見せた。
「おかげでスッキリしたよ! ありがとう!」
そう言うが早いか、スキップでもしそうな勢いで福永は教室を出て行く。私はそれを見届けると、思わずため息をついて机に腰掛けた。教室には西日が差し込み、かすかに届く吹奏楽部の演奏。
私には、いや、正確に言えば私と私のローファーには特別な力が有る。私がこのローファーで踏みつけたものは全て、因果律を無視して、幸せになってしまうのだ。曰く、好きな人に告白された、テストのヤマが当たった、痔が治った、何故か気分が良くなった……。先ほどの福永も、持病の偏頭痛を治療して欲しいと依頼して来たのだった。つまり、放課後の教室に呼び出し、踏んでくれ、と。まるっきり変態じゃないか。
私はこの力を恨んでいた。何が楽しくて担任や友達や知らないオッサンを踏みつけなければならないのか。自分で自分を踏みつけることは出来ない。これでは私が不幸なままだ。私自身がちっとも幸せになれないではないか。
「終わったー?」
扉が開き、落ち着いた声が教室に響いた。A子だった。
「うん。なんかスッキリしたって」
「それは良かった。良かったねえ」
柔らかい笑顔。育ちの良さが端々に伺える。ほんのり赤い、ウェーブがかったロングヘアーが揺れる。
「もう嫌だよ。人を踏みつけるのなんて好きじゃない」
「でも、それで喜んでくれる人がいるんだから良いんじゃない?」
A子にそう言われると、なんだか許せるような気がしてしまう。
「はい、じゃあ四つん這いになって」
突然、A子が命令する。私はドキドキしながらそれに従う。床に手をつき、四つん這いになる。
私の最大の不幸がここにあった。私は踏みつけられるのが大好きなのだ。その相手が可愛い女の子で、暴力性の欠片もない子であればもう最高だ。そんな女の子に蹂躙されている、という事実が堪らない。
A子がいつもの可愛い笑顔のままで、遠慮無く私を踏みつけてくる。A子の重みを背中に感じる。
私は、幸せになった。