エイプリルのフール。

「それマジ?」
「マジ」
「……へえええ、あの子がそんな趣味をねえ」
「ビックリだよな」
「ビックリだ」
「ビックリなんだけどさ、ウソなんだよね」
「ウソ? 何が?」
「今の話だよ」
「ウソなの?」
「うん」
「え、なんで?」
「いやだって、ほら」
Aが視線でカレンダーを指す。Bは思わず、そこに書いてある文字を読む。
「エイプリルフール」
「そう。エイプリルフール」
「エイプリルフールだからウソをついたの?」
「うん」
ふうんと鼻を鳴らすB。
「え、ごめんちょっと確認したいんだけど」
「なに?」
「今の話、全部ウソなの?」
「うん」
「え、全部? 最初から最後まで?」
「うん」
「P子の趣味の話も?」
「うん」
「空中マッサージの話も?」
「うん」
「暗躍する地下機関の話も?」
「うん」
「……」
Aはポリポリと頬を掻く。
トリコロールの意外な由来の話も当然」
「ウソ」
「だよなー!」
「ごめんな。なんか」
「いいよいいよ。お前そういうの乗っちゃうタイプだもんな」
「そうなんだよ。俺ってそういうの乗っちゃうタイプなんだよ」
「……あのさ、今まで秘密にしてたんだけどさ」
「ん?」
「……犬ってさ、実は猫らしいぜ……!」
「ごめんちょっと分からない」
「……いやだから、犬はね、実は猫なんだよ」
「……お前、ウソつくの、とことん下手だよな」
「うん……ごめんな」
「いいよいいよ。ほら、もうすぐ日付変わるし」
壁掛け時計を見るともなしに眺めて、ほんの少し頷く。
「俺さあ、もうすぐ終わるから言うけど、あんまりエイプリルフールって好きじゃないんだよね」
「そりゃそうだ。お前ウソつくの、とことんヘタだもんな」
「そういうことじゃなくてさ、ウソついてOKっていう日につくウソは、それは果たしてウソなのかどうかってことだよ」
首をかしげるA。
「そんなね、半ばバレることを期待して、半笑いでヘラヘラとつくウソを、そんなぷよぷよとした欺瞞をウソと呼んでいいのかってことだよ」
「分からんな」
「分からんか」
「分からん」
「そうか」
それきり二人は言葉を交わさず、日付も変わってしばらくしたころ、Bが用事があると言い出した。ロータリーまで送り出して、そこで別れた。
翌日、BからのメールをAが開いて見ると
「犬はね、本当は猫なんだよ。ほんとほんと」
送信日時、4月2日。Aは首をかしげて携帯をポケットに突っ込んだ。