電車

「なあ」
「ん?」
「なあおい」
「どうした」
「前からずっと疑問に思っていることがあるんだが」
「早く言えよ」
「電車ってなんで携帯で話すのが禁止なんだ?」
「それはあれだよ、ベラベラでかい声で喋られたら迷惑だからだろう」
「でかい声でベラベラ喋られるのが迷惑だって言うんなら、もっと迷惑なやつがいるだろうよ」
「誰だそれは」
「3人組ぐらいのおばさんチームだよ。紫や緑のメッシュが頭に入ってる」
「ああ」
「しかめっ面をしながら、どうでもいいことをあら大変ねえ、だとかなんとかひたすら喋っている。なんだあれは。あれか。口を5秒ぐらい閉じたら死ぬのか。鼻で呼吸が出来ないのか」
「落ち着けよ」
「というより、そもそも電車の中で喋るのが迷惑なのかって話だよ」
「だって、うるさいのは誰でも嫌だろう」
「だから電車に乗って自分の場所を確保したら、すぐに携帯を取り出してカチカチやり始めるわけか」
「あ、それは」
「だから電車に乗って自分の場所を確保したら、すぐに携帯を取り出してカチカチやり始めるわけか」
「2回言わなくていいよ」
「結構な人が乗っているのに、みんな携帯の画面を、文庫本を、自分の瞼の裏をばかり覗き込んでいて、誰も一言も喋らないんだ。その方が異常だろう」
「それは確かに」
「もっと話してくれよ。そんなんだから車掌のアナウンスもボソボソ声になるんだよ」
「はは」
「車掌もっとやる気出せよ。全然聞こえないんだよ。こっちはまだ慣れてないんだから、あんたのアナウンスも貴重な情報源なんだよ」
「落ち着け」
「といら、しあいあすぅ」
「何それ」
「車掌アナウンスの真似。ドアを閉める時。といら、しあいあすぅ」
「悪意があるね」
「といら、しあいあすぅ」
「しつこいよ」
「といら、しあいあすぅ」
「といら、しあいあすぅ」
「うぎおえいしゃえきあ、いぶあー、いぶあー」
「おでうちあ、ひあいがわえす」