ルーレット4


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「あ」
望月が何かに気付いたように車内を見渡した。
「うん、よし」
一人で頷いてニヤリと笑う。両替機から腰を上げた。
ロシアンルーレットだ。ロシアンルーレットをしよう」
背筋に一筋の電流が走り、体中に散っていった。冗談でもなんでもない、この男は本当にやる。僕達を遊び道具としか思っていないのだ。ロシアンルーレットだって? いい加減にしてくれ。
「ほら、俺達はちょうど六人。この銃の装弾数も六発。すごい偶然だろ?こりゃあもうやるしかないって」
望月は喋りながら、カチャカチャと拳銃をいじり出した。回転式の弾倉が外れて横に飛び出す。その様子を見て僕ははたと気付いた。
これはチャンスなのではないか?今なら拳銃は使えないだろう。望月の一番近くに座っている村山の加勢が得られれば、取り押さえるのは難しくないはず。僕が口火を切って、やつに突進すればいいのだ。望月は弾倉から弾を一つずつ取り出しているところだ。行け。今しかチャンスは無い。僕の中のわずかな勇気を奮い立たせる。行け!
僕は声を上げて立ち上がった。望月が驚いたようにこちらを見る。構わず体ごと突っ込む。
はずだった。最初の一歩を踏み出したところで僕の動きは止まった。望月が銃口を僕に向けている。二丁目の銃の銃口を。
「一丁しか持ってないと思った?」
楽しくてたまらないという風に望月が笑う。僕の視線は銃口に釘付けになっている。こちらを見つめる暗い暗い穴。その穴を眺めていると、まるで命が吸い取られるような錯覚に陥った。
「いや、でも良かったよ。今の攻防。スリルがあった。だから早く座って」
言われた通りに大人しく座る。銃を突きつけられてはもう何も出来ない。やがて望月はセットし直した弾倉を左手で勢いよく回し、ロシアンルーレットの準備を終えた。
「弾は一発。一人一回引き金を引く。確率は六分の一。OK?」
当然、誰も何も返事をしない。村山の寂しい頭頂部が、一目で分かるほど震えていた。
「ということで、最初は俺がやります」
「へ?」
後方から、高橋の細い間抜け声が聞こえた。思わず口から漏れてしまった、というような声だ。
「俺も含めて六人なんだから当たり前だろ」
高橋が慌てて首を縦に振る。
「それに、成功すれば実感がわくと思うんだよ」
「実感?」
「俺、生きてる!!ていう実感」
呆れてしまう。そんな実感は、中東あたりの紛争地帯にでも行って一人で得てくれ、と思った。僕達を巻き込まないでほしい。高橋が、はあ、と曖昧な返事をする。
「心配しなくても大丈夫だよ高橋。俺は当たらない。ロシアンルーレットの一発目で当たる映画なんて観た事ないし」
望月が銃をこめかみにあてた。引き金に指をかける。さすがに恐ろしいのかその指は小さく震えていて、右の頬がピクピクと痙攣している。意を決したのか、ぎゅっと目を閉じ指に力を込める。…が、引き金を引けない。
「怖え!すげえ!すげえ怖い!!すげえ!」
血走った目を見開き喚き散らした。その顔は微かに笑っているようにも見える。ふと思う。僕はどちらを望めば良いのだろうか。弾が発射される事か、されない事か。僕は望月が当たりを引いてくれることを望んでいる。望月が、頭を自ら撃ち抜いてくれることを願っている。恐ろしい事に、一人の人間の死を願っている。僕は望月と何も変わらないのではないか? この思いは殺意とい


銃声が響いた。