ルーレット5


目次


コマ送りの録画映像を見ているように思えた。今日三度目の黄色い光と同時に望月の体が右に傾いた。銃口をあてていた方のこめかみが不気味にひしゃげ、少し遅れて反対側のこめかみが不自然に膨らんだ。弾けた。色水を詰めておいた水風船が割れた時のように、真っ赤な血が飛び散る。その中に混じる明るいピンクの物体や白い固形物まで、僕は精細に眺める事が出来た。銃声がようやく届いた。体はさらに大きく右に傾き、座席の肘掛けに腰を打って沈む。望月は、信じられないとでも言いたそうな表情をしていたが、その顔もすぐに座席の陰に隠れてしまった。望月が倒れ伏すと、動くものは無くなった。雨の音が戻ってきた。



「喜んでいいもんかな」
村山が複雑そうに呟いたが、そのくちぶりには余裕が感じられる。押さえつけていた重荷がなくなり、淀んだ空気は徐々に霧散していた。
「まあ、でもこうやって全員助かったわけですし」
犯人以外の全員が、だが。
「それはそうなんけどな。なんか釈然とせんな…」
僕も同じ気持ちだったが、それよりもまず確かめなければならない事があった。
「誰か、携帯電話、使えます?」
皆、はっとして携帯電話を取り出す。が、ボタンをいくつか押すとすぐに表情が曇った。
「…ダメです。圏外」
青目が呟いた。
「やっぱりダメか…」
望月は、携帯は圏外だと言っていた。しかしもしかしたらハッタリかもしれない、そう考えたのだが無駄なようだった。
「圏外ってことは、か、かなり山奥、なんですかね」
まだ震えが収まらないのか、高橋がぎこちなく言う。村山が窓から外を眺めた。
「暗くてなんも見えん」
雨も降っている。それどころかさっきよりも強くなっているようだ。
「外には出ない方が良いわね」
きっぱりと瀬戸が言う。
「この暗さと雨じゃ、足を踏み外して崖に落ちてしまうかもしれない」
「そうですね。少なくとも明るくなるまでは」
「ちゅうことは、コレと一つ屋根の下で一晩過ごすっちゅうことか?」
村山がわずかに顎を動かして『コレ』が何であるかを示す。
「……うう…う…」
高橋が蚊の鳴くような声で呻く。『コレ』と一緒にいるのが嫌なのだろう。
「ならあんた、この雨の中、民家がどこにあるかも分からないまま一晩中フラフラうろつき回って、あげくの果てに崖の下で森の仲間たちの御馳走になりたいの?」
「瀬戸さん!」
瀬戸が体温を感じさせない目で高橋を睨みつけた。慌てて青目が制止する。高橋は苦い顔をしながら座席に腰を下ろした。