理解したい女と理解されたくない男

音楽とか、どんなの聴くの?
まだあまり親しくない彼女が尋ねる。
えーと、多分わかんないよ。マイナーなやつだから。
言うだけ言ってみればいいじゃない。
エレクトロニカっていうジャンルの曲。知ってる?
知らない。聴かせてよ。
僕はポケットからiPodを取り出し、曲を選び、彼女に渡す。
何これ、意味分かんない。
眉間にしわを寄せて、彼女がすぐにイヤホンを外した。
頭が痛くなりそう。こんなのどこがいいの?
…何も無いところがいいんだ。…例えばさ、ヘッドホンでこの曲を聴きながら街を歩くだろ、そうすると、何も聴かないで歩いている時と世界が全く変わらないんだ。他の曲だと、どうしても世界が変わっちゃうだろ。…えーと、分かんないよね。
うん。
分かって欲しくもない、と思った。
………人のiPodの中身って、意外とつまんないよね。
そう? 私は結構好きよ? その人の中身も分かるじゃない。
大抵、自分が知らない名前がいっぱい並んでるだけでしょ。
なら聴かせてもらえばいいのよ。さっきの私みたいに。そこから話も広がるし。
聴かせてもらって、嫌いな曲だったらどんな顔をすればいいのか分からない。
嫌いって言っちゃえばいいでしょ。…さっきの私みたいに。別にその人自体を否定してるわけじゃないんだからさあ。
なんか君、矛盾してるよ。
…あんたムカつくね。
ごめんなさい。


多分二人はこれ以上仲良くなれない。