ブツギリ'08


歩くという行為は楽しい。ただそれだけで楽しい。
歩く場所はどこでもいい。
本を開いて文字を追っていく行為自体が楽しいのと同じだ。
内容なんてのはどうでもいいんだ。
線路沿いを歩いていて、僕を追い抜いて行く電車に乗っている人と目が合う。
僕は彼らのことを不幸だと思う。彼らも僕のことを不幸だと思っているのだろう。
いや、向こうは僕のことなんて気にも留めていないのだろうな、思い直した。
ブツン


iPodの電源が切れてしまった。
大分古くなってきたせいか、近頃は唐突に電源が切れることがある。再起動。
ポルターガイスト 椎名林檎
これは伊達メガネだよ、とウソをついた。
今でも何故そんなウソをついたのか分からない。
本物とか偽物とか、そんなのどっちでもいいの、ってセリフは何の映画だったっけ。
思い出した。何とも変な映画だった。パビリ
ブツン


また電源が切れる。再起動。
TATTOOあり Number Girl
飲み会の二次会で、この曲だけを熱唱して、逃げ出すように帰ったことを思い出した。
みんなのキョトンとした顔が忘れられない。
いや、またウソをついた。実はもうほとんど覚えていない。
その時払い忘れた会費はまだ払っていないのだけど。
向こうも催
ブツン


電源が切れる。再起動。
Textuell Oval。
それにしても言葉ってやつはなんて不自由なんだろう。
そもそも意味がなんてものが不自由の始まりで
ブツン


電源。再起動。
海の風景 クラムボン
キーボードが欲しい。ずっと前から思っ
ブツン


再起動。
ワルツ 原田郁子
ブツン


再起動。
Cupid Sam Cooke
ブツン


再起動。
ブツン



ブツン
ぶんなげてやった。
古い型の青いiPodは、フェンスにあたって雑草の茂みの中に消えた。
ハハハ、と短く笑う。
ファックオフ死ね、で終わるのは椎名林檎のなんて曲だっけと考えながら、それからは鼻歌で歩いた。