なにをやったら死ねるかばかり考えていない。


「なあ君、誰かを好きになるということは綺麗なことでも素晴らしいことでもなくて、本当にどうしようもないことなんだよ」
そう呟きながら男は拳銃をもてあそぶ。
「なあ君、人間なんてものは本当にどうしようもないものだぜ。生命というもの自体がそもそもどうしようもないものだがね。その中でも人間は、自分がどうしようもないということに気付いてしまう辺りが、特にどうしようもない」
波の音が消える。男は拳銃を自らのこめかみにあてた。
「ハハハ、死ぬ気なんてないよ。だって今この拳銃には弾が一発しかこめられてない。確率は6分の1だよ。当たると思うか?」
潮の匂いが消えた。
「1発目に大当たりが出るって?…違うね。そんなドラマチックなことは起こらない。4発目だ。きっと4発目だ」
海の風景が消えた。男はふいに銃口を斜めにずらし、引き金を引いた。


カチ。カチ。バオン!!


銃弾は男の長髪をほんの少し削って空へ飛んでいった。男は銃弾の飛んでいった方向をしばらく眺めていたが、やがて振り返り、言った。
「な?」