ルーレット8


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終わりを告げる音。収奪を象徴する音。瀬戸の緑がかった瞳は、銃声の中にあっても空虚だった。引き金を引いて黄色い光に包まれてもなお、彼女の瞳には何の変化も無かった。ばっと広がった濃い赤が彼女の白い服と肌を一層際立たせる。瀬戸はまるでバレエか何かの悲劇のシーンのように、優雅とも言える動きで座席の向こうに消えていった。その瞳は僕を見つめているような気がしたが、それもまたすぐに見えなくなった。そして、雨の音。


「なんなんだろなあ」
村山がますます複雑な表情で言った。この場を押さえつける重しは無くなったはずなのだが、相変わらず淀んだ空気は動かなかった。掴み所の無い重圧に皆の表情は一様に固い。
「なんなんでしょうね」
僕は努めて軽い口調で返した。珍しく高橋だけが短く笑った。
「運が良いんだか悪いんだか」
僕の意志を汲み取ってくれたのか、さっき僕に言った言葉を青目が笑いながらまた口にした。
「まあこんなこともあるってことちね。人生ってのは不思議なもんだ」
村山の暢気な言葉で、少しずつ緊張の糸がほぐれていくような気がした。
「僕は運が良いんだと思います」
突然高橋が口を開く。
銃口も向けられたりしたけど、なんとかこうして生きているわけだし、何より」
子供のような瞳で僕たちを見渡す。
「小説のネタが出来ました」
そう言って高橋が笑うと、つられて皆も笑った。僕も笑う。青目が笑いながら言った。
「その通りですね。こんな嘘みたいな体験、小説のほうが似合ってると思います。それに高橋さんの運の強さならどんな賞だって取れますよ」
「なんならもう一度ロシアンルーレットで運試しでもやってみよか」
村山の悪趣味な冗談に、一瞬また空気が固まる。気まずくなった僕が窓のほうに目をやると、あることに気付いた。
「もうすぐ、夜が明けますね」
先ほどまで黒一色だった窓の外に、わずかながら青が混じり出していた。雨もこころなしか弱くなってきていて、これならば後1時間ほど待てば外に出られそうだと思った。
皆一様に外を見て、ようやく安堵の息を漏らした。緩やかな空気が完全に戻ってくる。
高橋の行動を止められなかったのは、緊張の糸が途切れてしまったからだろうか。それとも高橋の動きがあまりにも自然で、全く違和感が無かったからだろうか。いや、それ以前に僕は、こうなることを薄々予感していたのかも知れなかった。
高橋は何も言わずに運転席のほうまで歩いて行き、その途中で散らばっていた銃弾を拾った。そして望月や瀬戸が握っていた銃を手に取るとカチャカチャといじる。モデルガンの趣味でもあったのだろうか、すぐに弾倉が横に開き、高橋は当然のように穴の中の1つに1発だけ銃弾を込める。弾倉を閉じた。映画の登場人物のようにリボルバーを手で回す。安全装置がかちりと音を立てて外された。銃口が当然のようにこめかみにあてられた。引き金が引かれる。当然のように黄色い光と破裂音が溢れた。
僕は声にならない叫びをあげた。