ルーレット9(完結)


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また雨が強くなってきた。
わけが分からない。なんなんだ。一体何が起こっているんだ。恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
「…わしのせいか」
一点を見つめながら席に座り、村山が誰にともなく呟く。
「あんな冗談…いや…だがそれを真に受けて…」
「違います!」
青目が村山の席まで歩み寄る。村山が青目を見上げる。
「村山さんのせいなんかじゃありません。絶対に、違います」
強く、そして優しくそう言って、村山の肩に手を掛けた。かのように見えた。
「まあそんなことはどうでもいいんですけどね」
パン、という軽い音。同時に赤い霧が舞った。いつの間にか青目の右手には銃が握られている。望月の持っていたもう一丁の銃だ。銃弾は、青目を見上げる格好になっていた村山の、顎先からつむじの辺りを抜けていった。パスン。続けてもう一発。今度は赤い霧は舞わなかった。村山は最初に一度大きく跳ねたきり、もう動かなくなった。そしてこちらを見る。
銃を顔の横に掲げた青目がこちらにゆっくりと歩いてくる。僕はまるで縛られているかのように、座席に座ったまま動けなくなっていた。電気椅子に座らされ執行の時を待つ死刑囚は、きっとこんな気持ちなのだろうなどという能天気な思考が頭をよぎった。
「なんで」
ひどくかすれた声でやっとそれだけ言えた。青目は銃を僕に向け、母親のような目でただ僕を見つめている。イタズラを働いた子供からの謝罪の言葉を待つ母親の目だ。そんな目で射すくめられれば、大抵の子供は押し黙るしかないのだ。
「あんたを見つけたのは偶然だった」
この場にそぐわない軽い声。
「バス停であんたを見つけたときは驚いたわ。青目って名字、本当に覚えてない?」
友達と雑談でもしているかのようなリズム。
「本当は家を突き止めてからゆっくり、って予定だったんだけどね」
薄い笑みすら浮かぶ口元。
「ま、待て!ぼ、ぼ、僕が君に何をした!?」
「なんでそんなこと教えなきゃいけないの?自分がしたことも忘れる方が悪いんじゃないの?」
青目の顔に、怒りが初めて滲んだ。しかしすぐに消える。
「と、思ったんだけどー、チャンスをあげましょう」
言いながら、高橋の傍から何かを拾った。もう一丁の銃と銃弾。青目は元々持っていた銃を僕に構えながら、片手で高橋以上に素早く銃弾を込めた。もちろん、一発。そしてリボルバーを回す。軽い音を立ててリボルバーが回転する。
「引き金を一回引く度に、少しずつ理由を教えてあげる」
さらに回転が加えられる。僕の運命はあまりにも軽い音と共に回る。
やがてその音も止まった。
「先生、『当たり』が出る確率はいくつ?」
青目の瞳と銃口が僕を覗き込む。僕は計算するまでもない問題を何度も繰り返す。
確率は六分の一。
確率は六分の一。
確率は六分の一。
確率は六分の一。


確率は六分の一。