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何も無い。何も無いのだった。
椅子の上で脚を抱え、くるくると回っているといつの間にか下が上になっていて、天井を転がり回っている有様だ。
窓の外は真っ白で、どうせこの部屋の外は眩しくて何も見えないのだろう、と私は考えた。天井を這って窓枠に手をつきしっかりと覗き込んでみる。なるほどこの部屋は中空にこつ然とあり、遥か眼下に大海原が広がっているのが微かに伺えるだけのように思えた。しかしさらに注意深く光の中を見つめていると、遠くに橋のようなものを見つけた。
部屋は橋のようなものに近づいて行く。もしかすると、部屋ではなくあの橋の方が近づいているのかも知れない。どちらにしてもどちらでもいいことだった。
近くに来てみると、橋のように見えていたのは滑走路である事が分かった。私にはそれが崩落した高速道路の一部のように思えた。
部屋が路面スレスレを飛行する。私はドアを開けて降りてみようか、と考えた。だがいざドアを開けてみると怖くなってしまい、結局ドアを閉じてまた椅子の上に座ったのだった。滑走路はそのまま遠ざかり、やがて不意に、唐突に、余韻も何も無く消滅した。
消滅したのは滑走路だけでは無かったようだった。大海原も消え去り、いつのまにか窓から見える風景は、人気の無い農道に変わっていた。私はドアを開け、今度こそ本当に降り立った。
コントラストが強い。感情の無い太陽光によって生み出される影はただ真暗で、まるで光の当たらない場所には何も存在しないようだった。
電柱に設置されたスピーカーが突然がなり始める。
「本日の、天気は、ドライヤー、のち、晴れ。時々、女子供が、降るでしょう」
ほぼ同時に遠くから激しいドライヤー雨の音が聞こえてくる。段々と大きくなっていく。やがてパラパラとドライヤーが落ちてきた。当たらないように気を付けているとすぐに止んだ。
落ちているドライヤーの一つを拾い上げてみると、この間発売されたばかりの最新型だった。使えるかどうか試してみようと思ったが、コンセントがどこにも見当たらないので諦めた。
うんざりして天を見上げると、女子供が降ってくるのが見えた。太陽が眩しい。