回転椅子で眼がくるくる回る

座る。床を思い切り蹴り出すと、椅子はいとも容易くクルクルと回りだした。部屋の風景が真横にだらしなく延びて行く。さらに床を蹴る。さらにもう一度。蹴りだす度に回転の速度は増し、ついに視界には大小様々な帯がボーダー柄のように並ぶばかりになった。
眼を閉じて、土星の環を想う。
これは夢なのだろう。きっと夢なのだ。僕は眼を閉じたまま、回転する椅子と僕がドリルに変形する様子を想像した。床を削る音さえ聞こえてきそうだった。
落下した。勢い良くどこかに落ちたが、未だ回転は止まらない。風景の帯に、下階の住人の戸惑っている顔がかすかに見えた。僕の中にハテナマークが浮かぶが早いか、またも僕は落下の浮遊感を覚える。


結局、一階の管理人室まで掘り抜いて、さらに地下を目指そうとしたところで回転は止まった。見上げると、僕が貫いた部屋の住人たちが、穴からこちらを見物していた。
管理人のおじさんは、やるもんだねえ。すごいもんだ、と感心しきりだったが、その後でものすごい怒られたし、修理費も請求された。