無色透明ハーモニー

ぱちん、ぱちんぱちんと、頭の中で音がするのである。
物心ついた頃には既にこの音は鳴り始めていて、私は子供心に、この音が鳴り止んだ時が、私が死ぬ時なのだろうと確信していた。私の中の何かが弾けとび続け、私が成立出来ない程に疎になってしまった時、積み木の塔のように崩壊して終わりを迎えるのだ。
宙に浮かぶ歯車はゴトリゴトリと回り続けている。マンホールからは無色が染み出し続けている。終焉を想起させるそれらのサインは、しかし私以外の人間には見えないようであった。
道にバナナがあった。皮である。無数のバナナの皮が大通りに散乱している。歯車で出来た太陽が音を立てて振動する。女子高生がバナナの皮を思い切り踏みつけた。ローファーが無色のマンホール上を滑る。制服をひらめかせながら彼女は鮮やかに半回転、歩道に倒れ伏すか、というすんでのところで花火のように飛散した。
それが合図になったかのように、あちらでもこちらでも、カーディガンの女子高生が、ブレザーの女子高生が、私服姿の女子高生が、ありとあらゆる女子高生が次々にバナナの皮を踏みつけて飛散していった。歯車の動く重低音、私の脳内で響くパーカッション、飛散する人肉バナナ花火。それらは奇妙なアンサンブルを奏でながらただただ無目的に目の前の現実を満たすのだった。
雨は降らない。
隕石も落ちない。