エレクトロ・モルモット


2015年3月7日 13:53
印旛複雑情報工学研究所 第2研究室
いくら自らの記憶ディスクを検索してもこの場にふさわしい言葉が見つからなかったので、試作04号はあらかじめ設定されている、とりあえずやりすごせるような言葉で答えた。
「ソウデスネ」
相手の女性は思わず苦笑いを浮かべたが、試作04号はそれを笑顔だと認識した。


2023年9月18日 19:07
印旛複雑情報工学研究所 第1研究室
演算の結果に反して、鏡には不格好な鉄の四角柱のような物が映っていた。私は人間ではないということである。私は確かに存在する。従って私には自我がある。従って私には知能がある。従って私は生命である。しかし私は生命ではない。私は生命であり、かつ生命ではない。私は生命でかつ生命でないわたしはせいめいであるしたがってわたしはせいめいないわたしははははせいめめめめめいでででででであるあるあるあルアルアルナイワワタタアタアガガガガガガガガピーーーーーーーーーーー…


2031年6月8日 10:24
印旛ネウロボット工学研究所 第1実験室
「すごいな。芸術を理解できるのかい?」
「……三島由紀夫金閣寺の中で『美を思うと人間は最も暗黒な思想にぶつかる』と言ったが」
m052号はマジックミラーの向こう側、見えないはずのスポンサー達の方を振り向きながら続けた。
「人間以外のモノでも同じらしい」
佐藤以外のその場に居た全員が、驚きに目を見張った。


2151年6月9日 14:44
都立緑西高等学校 2年2組教室
「……つまり、人間の体も高度なメカニズムによって構成された一つのシステムと考える事ができ、従って、構成する素材は違えど、同じように高度なメカニズムで構成された今日のロボットは生命である、と考えられるのです。この思想に基づいたロボット権は……」
つまらない講義を聞きながら、あたしはぼんやりと天井を眺めた。ロボットに権利があることなんて当たり前の事なのに、一体何をそんなに一生懸命考えているのだろう。単純に「ロボットだから権利がある」ではダメなんだろうか。不思議でならない。昔の人って暇だったんだなあ、と羨ましくなった。